親が購入した不動産を子へ贈与 評価額めぐり当局と争い
2023/06/08
8億7千万円の不動産を購入後、その5カ月後に子に贈与し、子が財産評価基本通達に基づき購入価額の半分以下で評価して贈与税を申告したところ、当局が税務調査の通知に当たり、財産評価基本通達の例外規定である総則6項の適用を検討すると説明。その後、子がすぐさま購入価額の2分の1以上の金額で再評価して修正申告したが、過少申告加算税が賦課決定されたことから、その取消しをめぐり争いとなった事案がある(国税不服審判所・令和4年11月4日裁決)。
事案の概要
財産を次世代に生前贈与で承継させる場合、現金よりも不動産のほうが有利といわれている。というのも、贈与された現金はその金額で贈与税が課税されるのに対し、不動産は国税庁の財産評価基本通達(以下、評価通達)による控えめな評価額で課税されるからだ。そのため、親が生前に不動産を購入して子に贈与するケースは少なくないが、今回はその贈与税でトラブルが起きた。裁決書によると、事案の概要は次のとおり。
1.平成29年11月、父親が不動産を8億7千万円で購入。5カ月後の平成30年4月、 子であるAにその不動産を贈与した。
2.Aは購入価額の2分の1に満たないと見られる路線価評価で贈与税の申告をした。
3.4年後の令和3年、税務当局から実地調査の通知があり、評価通達総則6項の適用の可否判断する旨の説明があった。
4.Aは急遽、路線価方式ではない方法で求めた不動産の価額として、購入価額の2分の1以上とみられる金額で修正申告した。
5.令和4年、税務当局は修正申告をもとに過少申告加算税を賦課決定した。その際、修正申告書の提出が、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでないとして、通則法第65条第1項に規定する納付すべき税額に乗ずる割合を100分の5とした。
6.Aは過少申告加算税の賦課決定に納得できず、審判所の判断を仰ぐことにした。
争点となったのは、当初申告が過少申告となったことについて、過少加算税を課すこと が酷となる正当な理由があると認められるか否か。
当局が評価通達6項の適用を匂わせ 納税者が慌てて修正申告した結果・・・
請求人の主張
審査請求したAは、「評価通達という課税庁が定めた客観的ルールに従って評価額を計 算して当初申告を行ったのであるから、その内容は正当である。したがって、当初申告が過少申告となったとしても、請求人の責めに帰すべき事由はなく、過少申告加算税を賦課することは不当または酷になることから、正当な理由がある」と主張。
さらに、「調査通知の際、調査担当職員から調査の目的が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定める評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》の適用の可否判断にある旨の説明を受けたことから、土地建物の評価額が売買価格の2分の1を超えていれば評価通達6の適用はないと考え、修正申告書を提出したにすぎない」とも述べた。
審判所の判断
審判所はまず、過少申告加算税を賦課しない「正当な理由」が認められる場合について 「真に納税者の責めにすることのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当または酷になる場合をいうものと解するのが相当」と基本的な考え方を提示。これを踏まえ審判所は、次のように説示している。
「評価通達は、相続税および贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基 本的な取扱いを定めたものであり、(中略)そもそも法令とは異なり、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎない。このことに加え、評価通達の定める評価方法によって評価し、申告したとしても、評価通達6の定めにより課税庁から是正を求められることがあるように、評価通達自体が、評価通達の定める評価方法が財産の適正な評価額を求める唯一の方法であることをうたっているものではないことは明らかであるから、請求人が、評価通達の定める評価方法とは別の方法によって評価し、申告することを妨げるものではない」。
「そうすると、我が国が採用する申告納税制度の下では、課税価格計算においてどのような評価方法を用いるかは納税者の判断と責任に委ねられており、請求人が、本件当初申告に際し、評価通達の定める評価方法によって本件土地建物の評価額を計算したからといって、そのことが真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情に当たるとはいえない。そして、審理の全趣旨によっても、本件当初申告が過少申告となったことにつき、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情は見当たらない」。
評価通達6項の適用の適否 その境界線はどこなのか?
これらの結果、審判所は「正当な理由があるとは認められない」としてAの主張を退け たが、この事案にはいくつか気になるポイントがある。
まず、Aが当初申告で路線価評価した不動産はいくらだったのか、また、修正申告ではどのような評価方法を用いていくらで評価したのか、具体的なことは分からない。しかし、「土地建物の評価額が売買価格の2分の1を超えていれば評価通達6の適用はないと考え、修正申告書を提出した」というAの主張からも、当初申告では不動産の購入価額の2分の1以下で評価し、修正申告では2分の1以上で評価したことがうかがえる。そして、当局は修正申告の評価額をもとに過少申告加算税の賦課決定をしていることからも、当局が再評価の金額を適正だと認めたことは間違いなさそうだ。
また、今回の事案は不動産の購入から贈与まで5カ月という短い期間だったが、その点 について審判所で問題として取り上げられることはなかった。つまり、不動産の購入価額 と贈与後の評価額の乖離に対して、当局は評価通達総則6を適用するカードを見せてきた ことが考えられるだけに、Aの「2分の1を超えていれば」という再評価の金額や算定方法 については、専門家ならずとも関心を引くところだろう。
さらに、審判所は「評価通達による評価方法が財産の適正な評価額を求める唯一の方法 ではない」というが、評価通達に基づき申告することは、納税者なら当たり前のこと。そして、審判所は「どのような評価方法を用いるかは納税者の判断と責任に委ねられている」と指摘するが、不動産の購入金額と評価 額が極端に乖離していれば話は別だが、評価通達が使えるかどうか微妙なケースにおいて、わざわざ税額が大きくなる評価方法を自ら選択する納税者は、果たしてどれくらいいるのだろうか。